今回、Kickstarter社のゲーム事業部トップ(※取材時)のLuke Crane氏にインタビューをさせていただきました。インタビューの中から、Kickstarter社のアナログゲームにおけるアプローチが見えてきました。
Kickstarterについて
Kickstarterはアメリカに拠点を置くクラウドファンディングサイト運営をする企業です。
ユーザーは、開発中のプロダクトなどに対して出資をしてその対価として製品をお返しとして入手することができます。
Kickstarter(キックスターター)とは2009年に設立されたアメリカ合衆国の民間営利企業で、自社のウェブサイトにおいてクリエイティブなプロジェクトに向けてクラウドファンディングによる資金調達を行う手段を提供している。
出資は寄付と同様の扱いであり、投資者に資金を返済する義務はない。人々は金を稼ぐためにKickstarterのプロジェクトに投資することは出来ず、感謝のパーソナルノート、カスタムTシャツ、プロジェクト関係者との会食といった形のある賞品やこの場でしか味わえない経験、もしくは新商品のお試しと引き換えにプロジェクトのバックアップのみを行える。
(引用:Wikipedia)
Kickstarter・Luke Crane氏について
ニコ
Kickstarter社のゲーム事業部のリーダーをしており在任期間は6年半です。
2002年からTRPGのゲームデザインを手掛けており、The Burning WheelとBurning Empiresいうゲームを製作してきました。
現在も新しいゲームを作っていて、日本のコインランドリーをテーマにしたゲーム「TOKYO COIN LAUNDRY」を製作しています。
プレイヤーはコインランドリーで自分の洗濯物をしながら進めていくというストーリーになっていて、ものすごくおもしろいですよ!
Luke
ニコ
はい、そうです。自分でもキックスターターのプロジェクトを立ち上げていて、今まで10以上のプロジェクトで成功してきました。
Luke
・Luke氏は記事作成時点でクリエイターサポート全体を統括するポジションでらっしゃいます。
・「TOKYO COIN LAUNDRY」は、ittenの島本氏を含む4人での共作
Kickstarterのゲームマーケット出展について
ニコ
取材時、「ゲームマーケット2019春」の時期でした。
Luke
ニコ
そうですね。当然ゲームの試遊卓が置かれていることも大事なんですけども、それよりもやっぱりリラックスした環境でゲームを楽しめる空間を作りたいという思いがあります。
そのコンセプトを数年前に思いついて、実際にアメリカで何回か実施してきたら大成功したんです。
Luke
Luke
ニコ
今まで見たことのないアプローチで大変驚いています。当日どのようなブースになるのか見るのが楽しみです!
リラックスできる環境をキックスターターさんが提供をされて、そこでお客様が良い環境の中でゲームを楽しんでもらうことをコンセプトにブースが作られてというところですね。
「ゲームマーケット2019春・秋」にKickstarter社として出展。
淹れたてのドリップコーヒーと共に、Kickstarterでプロジェクトの成功を収めたゲームを遊ぶことができるゲームブースが提供されました。
印象的な日本のゲームと日本の制作者の出資募集について
ニコ
Luke
ニコ
ゲームマーケットが他の海外のボードゲームイベントとは違うのは、ほとんどがセルフ・パブリッシャーであるというのが非常に大きい特徴なのかなと思っています。
自分の持っている貯金を使ってゲームを作り、売上が元金を上回れば儲けになるようなことをやっていてゲームが売れなかった場合のリスクなどもあります。
ニコ
Kickstarterの場合は、全世界に売り込むことができ、日本人以外の方もアクセスしてくというところが非常に大きい強いと思っています。
一方で、海外発送などゲームデザイナーとしても準備をするものが非常に多そうで、大変そうなんじゃないかというイメージがあるのですが、その辺の事情をお聞かせ願います。
一方で日本のクリエイターに対してはどんどんキックスターターを使って、そういった理解してくれるバッカーがいることを伝えて進めたいと考えています。
Luke
確かに準備は大変でタダではない。世界のオーディエンスにリーチするには、どうしてもそれなりの努力が必要になってきてしまう。日本は約1.2億人だがアメリカは3億人いる。アメリカのマーケットにアプローチしたいならば、それなりの準備が必要です。
ただ、その労力はペイするはずだと考えています。取り組みとして今やっているのは、私たちとのパートナーシップなど通じて少しでもハードルを下げようという取り組みを進めています。
Luke
Kicsktarter社ではボードゲーム制作者向けのサポートを展開しており、「Made in Japan: テーブルゲーム」プロジェクトとして様々なゲームがローンチしました。
(参考:https://www.kickstarter.com/japan)
新しいゲームを作るだけではなくて一歩手前というか、「英語翻訳する」だけのプロジェクトでも立派な1プロジェクトなので。例えばあるゲームタイトルを翻訳して、販売する取り組みなども考えています。ゲームマーケットでも、英語のルールを入れて販売しているサークルが多いですよね。
なのでそういった需要はあり、もっと広がってくれるんじゃないかなと期待しております。
Luke
Kickstarterのバッカーに期待すること
ニコ
キックスターターのプロジェクト全体で、テーブルゲームの占める割合はどのぐらいなのでしょうか?
アナログゲームだけではなく、デジタルゲームを含めた金額なんですけれどもそのうちの8割がアナログゲームでした。
なので、全体の25%ぐらいがアナログゲームが占める割合になります。
Luke
ニコ
Luke
ニコ
「テラフォーミングマーズ 全拡張入り」のクラウドファンディングが日本語版も提供されるということで話題になりました。
海外出版社の出資募集で、日本語版が届くという取り組みは初めてでTwitter上では驚いている方が多いように見受けられました。こちらについての背景などご存知でしたら詳細をお聞かせ願います。
アークライトが日本語版を担当してくれたおかげで実現しました。アメリカのパブリッシャーも、他のマーケットでも販売したいという思惑がありました。
日本にはかなり大きなゲームコミュニティがあるということはパブリッシャー側も分かっている中で、結果がどうなるかは分からなかったけれど今回は実際にパブリッシャーの方がリスクを取って日本語化を進めて、アークライトさんを通して協力してもらったという形です。
結果それがものすごく成功した形になったのかなと思います。
Luke
Kickstarterでバッカーが出資する際のリスクについて
ニコ
まず第一にバッカーが期待していたゲームが届かない可能性があります。制作側が作っているうちにルールを変更する可能性もあります。
2つ目としては遅れてくる可能性もあります。最悪の場合は、そもそも実現しない可能性もあります。
ただ、キックスターターのゲームカテゴリーではファンディングが成功したとしても、その後作られないケースはものすごく稀です。
ぜひ理解していただきたいのは、バックするということはそもそもリスクを取って作っているクリエイターをサポートしているということなので。
当然のリスクは伴うけれども、その分のもちろん仕上がってきたときの喜びというのはすごく大きいんです。
Luke
ニコ
私もキックスターターさんでプロジェクトで5〜6個バッカーとしてキックさせていただいていて。届くのが1年後とかになるんですけれども、普通にものを買うよりもやっぱりわくわくしますね。
途中の過程の報告があったりだとか、ルールが公開されて、それを訳して待つだとか。一方で数が多いので、見きれないというのはありますよね。
私は今まで約350バックしてきました。でも、本当にちょとです。
4万4000ローンチしてきて、そのうちバックしたのが350なので。1%以下ですね。(笑顔)
仕事で見ているというのも1つあるんですけれども。自分の周りのコミュニティがみんなゲームクリエイターで。彼らがローンチしたら応援せざるをえないので、バックしちゃいます。
Luke
実は日本のローカライズのときに「バックする」というのを、なんとか翻訳しようかと考えたですけど、いい言葉が見当たらなかったんです。
でも実際には、自然発生的に「蹴る」というのが出てきたのは結構うれしい。それを今回の「テラフォーミングマーズ」の反応を見ながら、あ、そうなんだと知りました。
Luke
ニコ
出版社がKickstarterで新作をリリースするメリット
ニコ
最近は有名なパブリッシャーさんがキックスターターさんとかでゲームを出すのって、どんどん増えてきているのかなという風に思っているんですけれども。彼らのメリットというのはどういうところになるんですか?
すごくいいご質問ですね。ただパブリッシャーというのは昔から実はよく使っていただいていました。今パブリッシャーが増えているように見えるのは、ただプロジェクトが増えただけだという風に思っています。
比率は全体の個人対大手というのは、あまり変わっていないんじゃないかなと感じています。あまりにもプロジェクトがどんどん増えていて、今年の最初の四半期、通常例年はいつも1番静かで沈む時期なんですけれども、キックスターター史上、最も成功したプロジェクトが今回あって。もうちょっと考えられないぐらいプロジェクトが増えてきて、うれしいですと。
Luke
基本的にパブリッシャーというのは小さなところが多くて、自分自身もある意味パブリッシャーで。これまではキックスターターが登場する前までは、基本的には二択でした。
自分のお金があったら、新しいゲームに開発費につぎ込むのか。それとも、今までの過去のゲームをまた新しく作るために使うのかという二択だったんですけれども。キックスターターみたいなプラットホームができたために、パブリッシャーが古いゲームにお金を投資して使いながらも、新しいゲームに新しくキャッシュを入れなくても作れるようになった。
バックが集まって初めてゲームを作るだけでよくなったので、小さなパブリッシャーにとっては世界が変わったぐらい、ちゃんとキャッシュフローもできて、新しい開発をしながら自分たちの過去のものも売れるようになったので、画期的だと思っています。
Luke
ニコ
Luke
ニコ
よくキックスターターってグローバルだから、2000万集められますと思われる方も多いんですけども、実際に最も平均の総額というのは大体50万円から100万円ぐらいのレベルなので。最初に小さく始めて、例えば100個だけ限定品で作って、ぜひ恐れず発信していってくださいということをお伝えしたいです。
Luke
ニコ
もちろんサイトに登録をして、そこにいろいろヘルプセンターとかもあるので。それを参考にしていただきながら、登録するのがいいかなと思います。
何よりも大事なのはコミュニティを作ることですと。キックスターターは、基本的に自分のソーシャルアセットを金銭的なアセット、資本に変えていくというそういうプラットホームだと思います。
とにかく自分をサポートしてくれる人がいるということがまず大事です。日本であったら、ゲームマーケットがそういう物理的な空間になっているので、実際に自分のTwitterとかで発信をしたら、常に予約が殺到してくるので。そういったプラットホームが変わっただけだという風に思っています。
Luke
もう1つは、人にお金くださいというのを恥ずかしがらないことが、心理的な大きなハードルで。それは日本もアメリカも変わらないはず。
やっぱり最初は自分の周りにいる親友とか、友だちとか家族に対してお願いをする。家族だったらよくいるらしいんですけど、後で返すからと言って。例えば最初の1日で10人出資者がいると、全然集まり方が変わってくる。注目のされ方が変わってくる。
1日目に0人というのと、10人では全然違うので。まずは本当に小さいコミュニティから始めて、恥ずかしからずに「サポートしてください」って言えることがまずはファーストステップですね。
Luke
ニコ
まずバッカーに対してお伝えしたいことは、そのリスクをぜひ取ってクリエイターをサポートしてくださいと。
そうすることによって、どんどん将来も新しいプロジェクトがどんどん産まれてきます。
いい例としては自分のゲームカテゴリーとか、自分のカテゴリーを庭だと思っていると。庭というのは育てるためにはちゃんとサポートする必要があると。種を植えて、ちゃんと耕して、水をあげて成長させていく。
同じようにそうしないと、次の実が穫れないでしょと。リスクを取ることによって、他のクリエイターがあいつも成功したとか、あのプロジェクトも上手くいったから、じゃあ僕もやろう私もやろうとなって、そしたら新しいものが産まれてきて。さらにその循環がよくなるでしょう。
なので、やっぱりバッカーの方にはぜひリスクを取って、それは届かないとかではなくて、クリエイターをサポートしているということになるので一緒に成長していきましょうということをお伝えしたいです。
Luke
ニコ
おわりに
今回は、Kickstarter社のLuke Crane氏にインタビューをしました。
ボードゲーム出版社としてもクラウドファンディングの登場によって新しい開発をしながら自分たちの過去のものも売れるようになったというのはとても興味深い話でした。
ほぼ途中で中止になることもないということですので、リスクを取ってクリエイターをサポートをしていきたいと思いました。
Luke氏は現在はクリエイターサポート全体を統括するポジションにつき、ゲーム事業部は新しいメンバーが担当しています。
Kickstarter Japanのテーブルゲームアンバサダーとして、Miss Merc氏(Mandy Tong)がチームに参加し、日本のゲームデザイナーの海外進出の本格的サポート開始しています。「Made in Japan: テーブルゲーム」というプロジェクトの元、新たに複数のゲームがローンチしました。
また「ゲームマーケットライブ:フェーズ0」をアークライト・ゲームマーケット事務局とともに企画し、全面でサポートされています。
貴重な機会をいただいたKickstarter社のみ