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【特集】伝説級のボードゲーム編集者・Wolfgang Lüdtke氏とTM Spieleについて調べてみた

今回は、レジェンド級のボードゲーム編集者・Wolfgang Lüdtke氏について特集します。

ボードゲームデザインにおける作者と編集者の関係は、音楽における作曲者と編曲者の関係や映画・ドラマにおける脚本家と演出家の関係に近く、ボードゲームの完成形を大きく担っているのがボードゲーム編集者なのです。

カタン以降のドイツボードゲームシーンの中心にいた氏の経歴から、ドイツ年間ゲーム大賞2020ノミネートの最新作『マイ・シティ』を読み解いてみます。

『ドイツ年間ゲーム大賞2020』の主役はWolfgang Lüdtke氏!!

ドイツ年間ゲーム大賞2019」では、Wolfgang Warsch氏のSDJ・KDJでの同時3作品ノミネートが話題になった。(『ザ・マインド』『クアックサルバー』『ガンツ・シェーン・クレバー』)

ドイツ年間ゲーム大賞2020」はどうかというと、同じゲームデザイナーの作品はない。しかし、実は同じ編集者が手掛けた作品が2作品ノミネートされている。その作品は『マイ・シティ』と『ザ・クルー』、これらを手掛けたのはKOSMOS社のWolfgang Lüdtke氏だ。

Wolfgang Lüdtke氏が携わった作品で「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した作品は数多くあり、『ミシシッピクイーン』『ケルト』『アンドールの伝説』がそれにあたる。(KOSMOS版『街コロ』の編集も担当)

近年、KOSMOS社では『ウボンゴ』『イムホテップ』『EXIT』などを手がけるBärbel Schmidts氏がドイツ年間ゲーム大賞ではノミネートされることが多かったが、長年に渡ってKOSMOSの編集に携わってきたベテランが今回脚光を浴びた形だ。

そんな、Wolfgang Lüdtke氏が今回の主役だ。

【ドイツ年間ゲーム大賞2020】ノミネート作品&推奨作品一覧

Wolfgang Lüdtke氏の経歴

Wolfgang Lüdtke(引用:Board Game Geek)

Wolfgang Lüdtke氏の経歴を話すには、カタンの作者・Klaus Teuber氏とTM Spieleの歴史を語る必要がある。

TM Spieleの設立

Klaus Teuber氏は初作『バルバロッサ』でドイツ年間ゲーム大賞を受賞後、本業の傍らフリーのゲームデザイナーとして活動。『さまよえるオランダ人』『貴族の務め』などを経て、自分の作りたいゲームを作るため出版社TM SpieleをReiner Müller氏と共に1993年に立ち上げる。

TeuberとMüllerの頭文字をとってTM Spieleと名付けられた。その際の創設メンバーは他に2人おり、そのうちの1人がWolfgang Lüdtke氏だ。(もう1人は、Peter Neugebauer氏)

TM Spieleは初作『Vernissage』をリリース後、第二作となる『Knock Out』をリリースするも販売不振に陥る。その後Simba Toysのボードゲームブランド・Goldsieber Spieleを立ち上げ、ゲーム開発業務委託を請け負うことになる。

TM SpieleとGoldsieber Spiele

Goldsieber Spieleで初リリースしたゲームのうち3作品を1995年の「ドイツゲーム賞(Deutscher Spiele Preis)」のトップ10圏内へランクインさせ、Goldsieber Spieleは一躍有名メーカーになる。

(引用:Board Game Geek)
タイトル ゲーム賞
1号線で行こう ドイツゲーム賞1995 2位
ドイツ年間ゲーム大賞1995 推奨リスト
12星座ゲーム ドイツゲーム賞1995 3位
ギャロップロイヤル ドイツゲーム賞1995 6位
ドイツ年間ゲーム大賞1995 推奨リスト

1995年の成功を受け、1996年〜1997年も契約は継続され数々のタイトルが賞レースの上位に食い込む。

タイトル ゲーム賞
エントデッカー ドイツゲーム賞1996 2位
ピッチカー ドイツゲーム賞1996 3位
ハローダックス ドイツゲーム賞1996 キッズ大賞
ミシシッピクイーン ドイツ年間ゲーム大賞1997 大賞
ドイツゲーム賞1997 4位
レーベンヘルツ ドイツゲーム賞1997 大賞
ドイツ年間ゲーム大賞1997 推奨リスト
マニトゥ ドイツ年間ゲーム大賞1997 推奨リスト
ドイツゲーム賞1997 10位
ヘーゼルナッツの騎士 ドイツゲーム賞1997 キッズ大賞

この期間のGoldsieber Spieleのほとんどの編集業務を手がけていたのがWolfgang Lüdtke氏だ。1997年はキッズゲーム、ファミリーゲーム、ゲーマーズゲームと全ジャンルを制覇している。

TM SpieleとKOSMOS

Goldsieber Spieleの資金不足からタイトルに収まらなかった「カタンの開拓者たち」はKOSMOSからリリースされ、1995年の「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)」、「ドイツゲーム賞(Deutscher Spiele Preis)」2つで大賞を獲得。現在まで続く大ヒットを飛ばし、TM Spieleは、KOSMOSのゲーム編集業務を受託。KOSMOSの編集業務は、Reiner Müller氏が受け持った。

(引用:Board Game Geek)

Goldsieber Spiele、KOSMOS双方の成功を受け業務拡大によってTM Spieleの業務量は1997年にピークを迎える。自伝を読む限り、Lüdtke氏とMüller氏がそれぞれ持ってくるゲームをTauber氏とNeugebauer氏が加わってテストプレイをするという形態だったようだ。(97年当時Tauber氏は副業の状態、99年に専業になる。)

このとき、KOSMOS社の社長からGoldsieber Spieleとどちらかを選ぶよう選択を迫れれ、TM Spieleは1997年のタイトルを最後にGoldsieber Spieleのゲーム開発業務委託契約を終了。1998年以降KOSMOSの外部委託編集を請け負うことになる。TM Spiele解散の2013年までその関係は続く。最後にTM Spiele名義で編集されたゲームは『アンドールの伝説』となっている。

TM Spiele解散後、Wolfgang Lüdtke氏はKOSMOSへ籍を移し現在に至る。

ニコ

TM Spieleとしては2013年に解散していますが、Reiner Müller氏以外の3名でのテストプレイは現在でも行なっているそうですよ。

Wolfgang Lüdtke氏のKOSMOSでの仕事

Wolfgang Lüdtke氏は、KOSMOS社のディベロップメントを担当後はKOSMOSの2人用ゲームシリーズを展開。自らがゲームデザイナーとなり『カエサルとクレオパトラ』をリリースし15万部のベストセラーになる。

以降のKOSMOS 2人用ゲームシリーズをはじめ、カタンシリーズ以外の作品の多くの編集を手掛けた。

Lüdtke氏は、プロトタイプでの優れたゲームの可能性を見出すのを得意としており、ゲーム自体の開発作業に加えて彼は特に新たなゲームデザイナーやイラストレーターの発掘を行ってきた。

ゲームデザイナーとしては、Michael Rieneck氏、Inka&Markus Brand。イラストレーターとしては、Clause Stephan氏とMichael Menzel氏のゲームシーンでの起用などがある。

  • Michael Rieneck・・・『大聖堂』『キューバ』
  • Inka&Markus Brand・・・『村の人生』『EXIT』

編集の仕事について

Lüdtke氏は、インタビュー記事の中で編集の仕事について以下の通り語っている。

編集の仕事は非常に多様です。新しいゲームプロジェクトの場合、ゲームデザイナーから「電子メール」「電話」「見本市」などでアプローチされることからはじまります。

会話の中でゲームを紹介をしてもらい、メールでやりとりする際には、最初にゲームのルールとプロトタイプの写真などの資料をリクエストします。

他のケースでは、ゲームの特性について「プレーヤーは何を気にする必要があるのか?」「すでに存在する他の多くのゲームとどう違うのか?」などの具体的な質問をします。

説明内容に説得力があり、ゲームの最初のラウンドで何かがある場合には出版社の編集者に紹介します。

そして、彼らによるさらなるテストに残った場合、半年ごとのプロダクト会議で一緒にリリースするかどうかを決定します。それと並行して、ゲームのテーマについて考えています。提出された内容はすでに理想的かもしれませんが、設定を変更することもあります。テーマが決定したら、適したイラストレーターにゲームのデザインを依頼します。

同時に、作者と共にゲームを改良していきます。ほとんどの場合、この段階でゲームのタイトルはまだ決定していません。作者が提出したもの採用する場合もあります。

その後、ゲームのコンポーネントを決めていきます。木駒かプラスチック駒か?カードのサイズや枚数をどうするのか?イラストが何点必要か?

その他にカタログやボックスに必要なテキストをどうするのか、ルールブックをどのように書くかなどについても考える必要があります。

さらに並行して、過去にリリースした作品についての対応やこれからリリースする作品のプロトタイプの改善なども行っています。

ニコ

テストプレイから、箱の見栄えなどまで大体責任持ってやってる感じみたいですね。

TM SpieleとLüdtke氏のKOSMOSでの受賞歴は以下の通りとなっており、多くの成功を収めた編集者と言えるだろう。

タイトル ゲーム賞
カエサルとクレオパトラ ドイツ年間ゲーム大賞1998 推奨リスト
砂漠を超えて ドイツ年間ゲーム大賞1998 推奨リスト
カフナ ドイツ年間ゲーム大賞1999 推奨リスト
ギガンテン ドイツ年間ゲーム大賞1999 ノミネート
ターユー ドイツ年間ゲーム賞1999 推奨リスト
ラチッタ ドイツ年間ゲーム大賞2000 推奨リスト
バベル ドイツ年間ゲーム大賞2001 推奨リスト
バケツくずし ドイツ年間ゲーム大賞2002 推奨リスト
バルーンカップ ドイツ年間ゲーム大賞2003 推奨リスト
80日間世界一周 ドイツ年間ゲーム大賞2005 ノミネート
ジャンボ ドイツ年間ゲーム大賞2005 ノミネート
ブルームーンシティ ドイツ年間ゲーム大賞2006 ノミネート
ジャストフォーファン ドイツ年間ゲーム大賞2006 ノミネート
大聖堂 ドイツ年間ゲーム大賞2007 ノミネート
ケルト ドイツ年間ゲーム大賞2008 大賞
ラパヌイ ドイツ年間ゲーム大賞2012 ノミネート
ラ・ボカ ドイツ年間ゲーム大賞2013 ノミネート
タルギ ドイツ年間エキスパートゲーム大賞2013 ノミネート
アンドールの伝説 ドイツ年間エキスパートゲーム大賞2013 大賞
街コロ ドイツ年間ゲーム大賞2015 ノミネート
ザ・クルー ドイツ年間ゲーム大賞2020 ノミネート
マイ・シティ ドイツ年間ゲーム大賞2020 ノミネート

『マイ・シティ』から見えてくるもの

そんなドイツゲームおけるレジェンドであるLüdtke氏が、『マイ・シティ』にではアメリカ発のレガシーシステム(コンポーネントが変化し、不可逆なボードゲーム)を採用し新しい潮流をゲームに組み込んだ。

【ゲーム紹介】マイ・シティ (My City)|全8章・24のストーリーを進めるレガシータイル配置ゲーム!

『マイ・シティ』は、シンプルなタイル配置ゲームから始まりストーリが進むにつれて段々とゲームの要素が複雑になっていく。特徴的な点としては、追加したルールが減る場合もあるという点だ。例えば、前の章では使った得点ルールやゲーム開始位置のルールが次の章ではなくなるといった形だ。

過去に私がプレイしたことのあるレガシーゲームは『パンデミック:レガシー』であるが、ルールの追加があったが減ることはなかった。

このルールの足し引きの体験には、ボードゲーム開発におけるテストプレイによってルールを加えたり削ったりする過程に近く、『マイ・シティ』の時代が進むにつれて昨今の複雑なボードゲームで適用されるような複数の得点要素などが追加されていくのだ。

マイ・シティ

この辺については、Lüdtke氏の27年に渡るボードゲームディベロップメントにおけるルールアレンジの引き出しの一部を見ているようでもあった。

ゲーム製作の過程において、レガシーシステムが先だったのか後だったのかは大変気になるところである。後者である場合には、テストプレイをしたがどうアレンジしても楽しめるためそれらの様々なルールをレガシーとしてパッケージングしたという考え方もあるのかもしれない。

『マイ・シティ』において24種類のタイル配置ゲームを作ったことで、近年・複数の出版社から似て非なるポリオミノタイル配置ゲームが新作として発売される状況へ一石投じたようにも感じた。

長年に渡って多くの新しいゲームシステムを世に送り出してきたLüdtke氏が、タイル配置ゲームというジャンルのアレンジメントについて終着点の形をレガシーシステムを通じて示したものなのかもしれない。

あとがき

今回は、レジェンド級のボードゲーム編集者Wolfgang Lüdtke氏をご紹介しました。

この記事を書き上げるにあたっては、TM SpieleについてのWikipedia記事、今年発売されたトイバー氏の自伝などを参考にまとめました。私の理解の足りていない部分や誤認している箇所はあるかもしれないので、当時を知る有識者の方には是非ご教示賜りたいところです。

前回のVictor Kobilke氏の記事の感想にて「他の編集者の記事も」というリクエストをいただいた中で、ドイツボードゲームシーンのディベロップメント文化のキーマンが誰なのかを探してたどり着いたのが、Lüdtke氏でした。

また、KOSMOSの2人用ゲームシリーズにハマっていたこととも重なり宿命的なものを感じました。

ドイツボードゲーム界を席巻した1997年頃のゲームはゲームシステムが非常にシンプルで、ゲームの根幹となるメカニクスで楽しませるものが多いように感じています。

今遊ぶと古さだったり物足りなさを感じるデザインであるものの、ゲームシステムの面白さを楽しむというシンプルな中にある悩ましさの演出などが私の心を惹きつけてやまないのかもしれません。

こうしてコツコツと発明されてきたゲームシステムの積み重ねが、現代のボードゲームシーンに脈々と受け継がれているのだろうと想いを馳せちゃったりするわけです。

初期のGoldsieber Spieleの作品や、90年~00年代のKOSMOSゲームがお好きな方はきっとWolfgang Lüdtke氏の虜です!!

参考 TM-SpieleWikipedia 参考 10 FRAGEN AN WOLFGANG LÜDTKE 【特集】凄腕のボードゲーム編集者・Viktor Kobilke氏について調べてみた